君の世界に触れさせて
 ただ、向かっていた先は学年棟だとわかっていたから、僕は走って追いかける。


 予想通り、氷野は廊下を歩いていた。


「氷野、止まってって」


 氷野の肩に手を置くと、ようやく氷野は立ち止まった。


 少しだけ顔を動かしたことで見えたその視線は、鋭い。


「……夏川栄治はお呼びじゃないんだけど」


 迷惑そうに、僕の手を払う。


 あまりよく思われていないだろうという気はしていたけど、ここまで敵意をむき出しにされるとは思っていなかった。


「なんでそんなに、僕に敵意を向けるんだ」


 氷野は大きなため息をついて、僕と向き合った。


 真正面で睨みつけられると、みっともなく圧倒されてしまう。


 ただ、その瞳に込められた感情は、怒りだけには見えなかった。


 その中に、悲しみが揺れ動いているように感じた。


「夏川栄治、依澄に言ったんでしょ? 依澄の言葉は正しすぎるって」


 一瞬、なんのことかわからなかった。


『正しすぎる言葉は、ときに他人を傷付けるんだよ』


 古賀が泣きそうになった、あの言葉のことだろうか。


「……言った。でもそれは」
「それのせいで」
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