君の世界に触れさせて
 氷野は僕の言い訳すら聞いてくれなかった。


 僕の言葉を遮ったその声は、感情を押さえ込んでいるように思えた。


「その言葉のせいで、依澄からまた笑顔が消えた」
「また……?」


 氷野は、さっき女子二人に向けたような、冷たい眼をする。


 それだけではない。


 隠れていたはずの悲しみが伝わってきて、僕まで苦しくなる。


「もう、依澄には近寄らないで」


 ここまではっきりした拒絶をされるのは、初めてだった。


 氷野はまた僕に背を向ける。


 今までの僕だったら、このまま氷野の背中を見送っただろう。


 でも、不思議と僕は動き出し、氷野の前に立って道を塞いだ。


 氷野は目を見開いて、僕を見上げる。


「あんな古賀を見て、はいそうですかって頷けないよ」
「……どうして」


 少し面倒そうに見えるのは、きっと気のせいではない。


 だけど、大人しく引き下がることはできそうになかった。


「放っておけないから。僕は、古賀には笑っていてほしいんだよ」


 氷野はただ黙って、僕を見つめてくる。


 僕の想いが少しでも伝わっていると思ってもいいのだろうか。


 僕は若干不安になりながら、話を続ける。
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