君の世界に触れさせて
「お願いだ、古賀になにがあったのか、教えてほしい。それを知らないと、僕はまた、古賀に間違った言葉を言ってしまう」


 僕はあのとき、古賀のことを考えながら話をしていたつもりだ。


 だけど、古賀のことを知らないから、知らない間に古賀を傷付けていたのかもしれない。


「もう、古賀を傷付けたくないんだ……」


 僕の声は小さかった。


 僕の言葉のせいで、古賀が笑わなくなってしまった。


 氷野が告げたそれが、喉に刺さった魚の骨みたいに、ずっと心に引っかかっている。


 でもきっと、言われたほうの苦しみは、こんなものではないのだろう。


 古賀が今でも苦しんでいると思うと、胸が張り裂けそうだ。


「……それ、仕事なんじゃないの?」


 ふと、氷野は僕のカメラを指さした。


「そう、だけど……」


 どうして氷野がそんなことを気にするのかわからなくて、戸惑いながら答える。


「仕事より依澄を優先したら、依澄が気にする。ちゃんと働いてきて。その間に、依澄に今のこと伝えておくから」


 氷野は言いながら、僕の横を通り過ぎていく。


「ありがとう」


 僕が氷野の背中にお礼を言っても、氷野は反応しなかった。


 きっと届いているだろうと信じて、僕はサッカー場に向かった。
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