君の世界に触れさせて
◇
「抜け殻みたい」
試合の盛り上がりに置いていかれながら、サッカー場の隅でただシャッターボタンを押していたら、横から僕を嘲笑するかのような声が聞こえてきた。
氷野が隣に来たことに気付かないくらい、僕はボーッとしていたらしい。
「よく、僕がここにいるってわかったね」
氷野は試合のほうに視線を向けているけど、その目にはなにも映っていないように感じる。
心配になるくらい、ただ遠くを眺めている。
「佐伯センパイに聞いた」
声に気力がなくて心配になってしまう。
ただ一つ、それよりも気になることがあった。
「あの……どうして佐伯はセンパイって付けるのに、僕は呼び捨てなの?」
前に『夏川センパイ』と呼ばれた記憶があるからこそ、不思議でならなかった。
「中学のときからずっとそう呼んでたから」
氷野の言い方的に、フルネームで呼び捨てをしていることに、罪悪感は抱いていないようだ。
ただ、僕は中学時代の氷野に会った覚えはない。
だから、どういうことか尋ねようと思ったけど、なんとなく予想がついたから、やめた。
「手、止まってる」
氷野はカメラを指す。
この状況で写真を撮れだなんて、無茶を言う。
『仕事より依澄を優先したら、依澄が気にする』
反論してやろうかと思ったけど、僕はその言葉を思い出し、ファインダーを覗く。
さっきよりも集中できなくて、まともに写真なんて撮れたものじゃない。
「抜け殻みたい」
試合の盛り上がりに置いていかれながら、サッカー場の隅でただシャッターボタンを押していたら、横から僕を嘲笑するかのような声が聞こえてきた。
氷野が隣に来たことに気付かないくらい、僕はボーッとしていたらしい。
「よく、僕がここにいるってわかったね」
氷野は試合のほうに視線を向けているけど、その目にはなにも映っていないように感じる。
心配になるくらい、ただ遠くを眺めている。
「佐伯センパイに聞いた」
声に気力がなくて心配になってしまう。
ただ一つ、それよりも気になることがあった。
「あの……どうして佐伯はセンパイって付けるのに、僕は呼び捨てなの?」
前に『夏川センパイ』と呼ばれた記憶があるからこそ、不思議でならなかった。
「中学のときからずっとそう呼んでたから」
氷野の言い方的に、フルネームで呼び捨てをしていることに、罪悪感は抱いていないようだ。
ただ、僕は中学時代の氷野に会った覚えはない。
だから、どういうことか尋ねようと思ったけど、なんとなく予想がついたから、やめた。
「手、止まってる」
氷野はカメラを指す。
この状況で写真を撮れだなんて、無茶を言う。
『仕事より依澄を優先したら、依澄が気にする』
反論してやろうかと思ったけど、僕はその言葉を思い出し、ファインダーを覗く。
さっきよりも集中できなくて、まともに写真なんて撮れたものじゃない。