君の世界に触れさせて



「抜け殻みたい」


 試合の盛り上がりに置いていかれながら、サッカー場の隅でただシャッターボタンを押していたら、横から僕を嘲笑するかのような声が聞こえてきた。


 氷野が隣に来たことに気付かないくらい、僕はボーッとしていたらしい。


「よく、僕がここにいるってわかったね」


 氷野は試合のほうに視線を向けているけど、その目にはなにも映っていないように感じる。


 心配になるくらい、ただ遠くを眺めている。


「佐伯センパイに聞いた」


 声に気力がなくて心配になってしまう。


 ただ一つ、それよりも気になることがあった。


「あの……どうして佐伯はセンパイって付けるのに、僕は呼び捨てなの?」


 前に『夏川センパイ』と呼ばれた記憶があるからこそ、不思議でならなかった。


「中学のときからずっとそう呼んでたから」


 氷野の言い方的に、フルネームで呼び捨てをしていることに、罪悪感は抱いていないようだ。


 ただ、僕は中学時代の氷野に会った覚えはない。


 だから、どういうことか尋ねようと思ったけど、なんとなく予想がついたから、やめた。


「手、止まってる」


 氷野はカメラを指す。


 この状況で写真を撮れだなんて、無茶を言う。


『仕事より依澄を優先したら、依澄が気にする』


 反論してやろうかと思ったけど、僕はその言葉を思い出し、ファインダーを覗く。


 さっきよりも集中できなくて、まともに写真なんて撮れたものじゃない。
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