君の世界に触れさせて
「依澄が変わったのは、中学でバスケ部に入ったから。そこでは、自分のことははっきり言わなきゃ負けみたいな空気があって。私はそれが気に入らなくて逃げたんだけど……」
「古賀は逃げなかったんだね」


 氷野が苦しそうに言葉を止め、僕が続きを言う。


 氷野は小さく頷いた。


「こんなことで、大好きなバスケを嫌いになりたくないからって」


 好きなものを嫌いになりたくない。


 その感覚は、僕もそうだったからわかる。


 古賀も同じだったなんて、思いもしなかった。


 どうせ古賀にはわからないだろうって決めつけて、あんな突き放し方をしてしまったことを、今さらながらに後悔する。


「最初は依澄なりに周りと打ち解けようとしてたんだけど、そんな簡単にはいかなくて。結局、依澄は周りの空気に飲み込まれて、どんどん依澄の言葉は強くなった」


 そのときの古賀の葛藤を想像するだけで、胸が締め付けられる。


 好きなものを諦めないためにその選択をするなんて、どれだけ勇気が必要だったんだろう。

 そして、どれだけ苦しかっただろう。


 僕はますます言葉が出なかった。


「それから徐々に部活中だけじゃなくて、普段から言い過ぎるようになり始めたせいで、依澄の周りからどんどん人が減っていった」
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