君の世界に触れさせて
 古賀の苦しみを傍で見てきたからこそだろうか、氷野も険しい表情をする。


 僕のときとは違った、人の離れ方。

 勘違いされてしまうのも苦しいけど、相手を傷付けてしまったことで離れてしまうのは、もっと苦しいだろう。


「依澄は人間関係でよく悩んで、苦しんでた。それでも、依澄は部活を辞めなかった。もう取り返しがつかないって思ってただけかもしれないけど」


 僕よりも苦しい思いをしただろうに、逃げなかったなんて尊敬する。


 今すぐ古賀のもとに向かって、“よく頑張った”と伝えたいところだけど、氷野の話はまだ終わらなかった。


「人間関係が最悪な中で、依澄は実力でレギュラーになったんだけど……レギュラーはプレーを映像とかで残されて、分析されて、部員から集中攻撃をくらう。それは依澄も例外じゃなかった」


 ただでさえお互いに攻撃をし合っている環境で、そんなことをされるなんて、考えただけで背筋が凍る。


 すると、ただまっすぐ遠くを見ていただけの氷野の瞳に、僕が映される。


 変わらず切ない瞳で、僕はどこまでも暗闇に引きずり込まれてしまいそうな気分になる。


「依澄、写真に撮られるのはキライって言ってたでしょ?」


 二度ほどはっきりと言われたから、覚えている。


 ただ、もう僕の声は上手く出てこなくて、首を縦に振ることしかしなかった。


「あれは、自分の姿が残るのが怖かったからだよ」
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