君の世界に触れさせて
「私も依澄ママも依澄パパも、依澄に笑顔が戻って、すごく嬉しかった。依澄ママたちは、依澄が写真を撮りたいわけじゃないのに、入学祝いにカメラを買っちゃうくらい、喜んでた」


 あのカメラにそんな想いが込められていたと知り、古賀が優しく微笑んでいた理由がわかった気がした。


 素敵な話だと思ったけど、一つ、気になることがあった。


「古賀は、僕に写真を教えてほしいって言ってきたんだけど、撮ることには興味なかったの?」
「夏川栄治に写真を撮らせるために、いろいろ試してたんじゃない?」


 その話に、妙に納得した。


 猪突猛進なところがある古賀らしい理由だ。


「まあ、それくらい必死だったんだよ、依澄は。それなのに……」


 氷野は視線を落として、落ち込んだように見せる。


 氷野の調子が戻った。


 わざとらしい演技に、僕はそう思った。


「当の本人に写真を撮らないって突っぱねられて、さぞ悲しかっただろうね」


 氷野は容赦なく、僕の痛いところを突いてくる。


「……僕にもいろいろあったんだよ」


 氷野が鼻で笑ったことで、信じてもらえていないのだとわかる。


 まあ、氷野からしてみれば、僕が気まぐれに写真を再開したように映ったのかもしれないけど。
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