君の世界に触れさせて
 氷野に僕の過去を話す義理はないと思い、僕は今の氷野の反応を流した。


「氷野は、古賀がどんなに変わっても、傍を離れなかったんだね」
「当たり前でしょ」


 氷野の声は強かった。


 その瞳は、バカにするなと言っているようだ。


「私はなにがあっても、依澄の味方でいるって決めてるから」


 その存在が、どれほど心強いか。


『俺は、栄治がそんな奴じゃないって知ってるからな』


 みんなが離れていってしまったとき、佐伯は変わらず笑顔を向けてきた。


 それにどれだけ救われたのか、きっと佐伯は知らない。


 古賀だって、同じ気持ちだっただろう。


「依澄が笑っていられるなら、私は今後一切、依澄の過去に触れる気はなかった。依澄が気にしていることだって、そう。それなのに」


 だけど、僕が触れた。


 ただ一方的に、心の中を土足で踏み荒らすように。


 僕を見つめる視線から、憎しみが伝わってくる。


「……だからって、古賀が間違ったことをしようとしているときに、黙って見守るのは違うと思う」


 あのとき、僕は古賀の気持ちを考えているつもりだった。
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