君の世界に触れさせて
 古賀の過去を知らなかったから、古賀を傷付けるようなことを言った。


 それに関しては、後悔したって仕方ないとわかっているけど、後悔してしまう。


 でも、古賀を止めなければよかったとは、思わない。


 もしあのままだったら、篠崎さんの表情を見て、古賀はまた自分を責めていただろうから。


「……わかってる。でも、依澄自身が自分を責めてるなら、私はただ、依澄に寄り添うだけ」


 僕には、氷野が共に地獄に堕ちる覚悟を決めているように見えた。


「今の古賀にはきっと、寄り添うだけじゃなくて、引っ張り上げてくれる存在が必要だよ」


 氷野は僕の発言が気に入らなかったようで、僕を睨む。


「……なに? 夏川栄治も、正論を突きつけるタイプ? 依澄に正直すぎはダメとか言っておきながら」
「いや……そんなつもりは……」


 氷野の迫力に圧倒されて言い淀んでしまった。


 ただ、これは正論というより、僕自身の体験から、そう考えずにはいられなかったことだった。


 あのころの佐伯は、僕の味方でいてくれただけでなく、僕を引き上げようともしてくれた。


 佐伯だけじゃない。

 矢崎先生もだ。


 でも僕は、立ち上がれなかった。立ち上がる勇気がなかった。
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