偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
はじまりは偽装結婚
午後八時五分前。オフィス街に程近いカフェ『アリビオ』のドアが開き、ドアベルがカラン
と優しい音を立てた。
城崎花穂(しろさきかほ)はテーブルを拭いていた手を止め、入り口に視線を向ける。
入って来た男性は、雨に降られたのかスーツの肩が少し濡れていた。
艶やかな黒髪をかきあげ、端整な顔には参ったなとでも言いたそうな苦笑いを浮かべる
彼は、この店の常連客だ。
バイトとして週に五日働いている花穂は彼と接する機会が多く、気付けば親しく言葉を
交わす間柄になっていた。
六条響一(ろくじょうきょういち)という名前も、花穂より六才年上の三十一歳という年齢も、近くに本社ビルを構える大企業『六条ホールディングス』の役員だということも、彼から直接聞き知った。
花穂は棚に収納してあるタオルを取り出し、入り口に向かった。
「いらっしゃいませ。これよかったら使ってください」
響一は花穂が差し出した白いタオルを受け取り、ほっとしたような笑みを浮かべる。
「ありがとう。突然雨脚が強くなるから焦ったよ」