偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる

◇◇

「はあ……」

 響一は生まれた熱を冷ますようにシャワーを全開にして頭から浴びて、深い溜息をついた。

 低く設定した水温は冬に相応しくないが、今の響一には必要だった。

(風呂上りの花穂の威力はかなりのものだったな)

 初めてみるパジャマ姿。メイクをしていない素顔はいつもよりもやや幼い印象で、はっきり言って息を呑む程可愛かった。

 響一は内心動揺していたが、なんとか平静を装いバスルームに駆けこんだ。

 花穂にはまだ自分の想いを絶対に知られる訳にはいかないからだ。

 あくまで紳士的に余裕の態度を貫かなくては。ガツガツ迫ったら怖がらせるだけ。

 とはいえこの調子ではいずれ花穂にも気づかれてしまいそうだ。

 なんだかんだ理由付けをして結婚を申し出た響一の思惑が、実は花穂が好きなだけという単純な動機だったということを。

 響一としてはむしろ早く気持ちを伝えたいが、花穂が混乱するのが目に見えている。

(彼女は偽装結婚だと思い込んで疑ってもいないからな)

 あのとき、無理やり割り込んだ見合いの席で、愛しているから結婚して欲しい、なんて言える訳がなかった。

 もし言ったとしたら間違いなく引かれただろうし、プロポーズは成功しなかったはずだ。
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