偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 苦笑いで言うと、響一は困ったように眉を下げる。しかしすぐに花穂の肩を抱き寄せて明るい声を出した。

「お義父さんは新しい仕事を頑張っているし、お義母さんの体調もよくなってきているだろ。それに俺たち夫婦は円満だ。これからはよいことばかりだな」

「ふふ……ありがとうございます、慰めてくれて」

 響一の明るさのおかげで、暗いムードにならずに済む。

 助けて貰っておいてへらへらしているのはどうかと思うが、響一自身が花穂に思い悩んで欲しくないと思っていると感じるのだ。

(響一さんのおかげで、以前より前向きになれた気がする)

「そろそろ向かおうか」

 響一が町中の大時計に目を遣り言った。

 時刻は十二時四十分。ここから移動して、丁度約束の時間に実家に着きそうだ。

 花穂は響一に手を引かれ駐車場に向かった。


 午後一時に実家に着くと、珍しく父が玄関まで迎えに出て来た。

 響一が一緒だと事前に伝えてあったからだろう。

 応接間にしている和室の長机の上には、もてなしの料理が並んでいて、はりきって歓迎の準備をしてくれたのが伝わってきた。
< 106 / 214 >

この作品をシェア

pagetop