偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
「お父さんどうしたの?」
「響一君の飲み物がなくなった。お代わりを持って来てくれ」
父の指示に箕浦が困ったように顔を曇らせた。
「申し訳ありません。ノンアルコールドリンクはそれが最後になります」
「なに?」
箕浦の報告を聞いた父の顔が瞬く間に不機嫌そうに歪む。大分丸くなったと思っていたが、頭に血が上りやすいのは、なかなか治らないらしい。
花穂は仕方がないなと小さな溜息を吐きながら立ち上がった。
「飲み物なら私が買ってくるわ」
「花穂さん? 私が行きますよ」
箕浦が驚いたように花穂に訴える。
「ううん大丈夫ですよ。酒屋までなら自転車で十分でいけるから」
「花穂、買い出しなら俺が行くよ」
話を聞いていた響一が、腰を浮かしかける。
「ありがとう。でも酒屋さんはちょっとわかり辛い所にあるから、私が行ってくる。響一さんはお父さんの相手をお願いします」
花穂は小さなバッグを手に取り部屋を出た。
自転車の鍵は以前と変わらず玄関の下駄箱の上に置いて有った。
花穂が家を出る前からある自転車は、スタイリッシュさとはかけ離れた古いデザイン。
近所に買い物に行くのによく乗ったものだ。