偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 懐かしさを感じながら自転車を走らせ酒屋に行き、目当ての飲み物を購入した。

 自転車の前かごはドリンクでいっぱいの袋ふたつでぎゅうぎゅうだ。

 おかげでハンドルが重くバランスがとり辛い。来るときは爽快に滑り降りて来た坂を、自転車を降りて必死に押しながら上る。

(結構きつい……最近運動不足だからかな?)

 坂の頂上で一休みをして額に滲んだ汗を拭っていると、思がけなく呼びかけられた。

「花穂」

 ずきっと心臓が軋(きし)んだ気がした。

 花穂は恐る恐る声がした後ろを振り返る。

「やっぱり花穂だ。久し振りだな~三年ぶりか?」

 そこに居た人物の姿に息をのみ、逃げるように視線を伏せたが動揺のあまり視線が定まらない。

(どうして、輝さんがここに?!)

 男性にしては甲高い声、聞き取り辛い早口。どこか攻撃的に感じる話し方。

 呼びかけられてすぐに輝の顔が思い浮かんだ。でも勘違いであってほしいと願っていたのに。

 三メートル程先で佇み値踏みするように花穂を見ている姿は、記憶と殆ど変わらない。

 花穂より頭一以上の差がある長身で、見下ろされると威圧感で苦しくなる。

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