偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 彼の切れ長の目をすっきりしていて素敵だと言う人もいたが、花穂は睨まれているような気がして恐怖を覚えた。

 今もまた指先が震えている。

 婚約破棄をしてからもう三年以上経つというのに、輝に対する恐れは少しも消えていなかったのだと実感した。

 このまま立ち去ってしまいたいのに、足が固まってしまったように動かない。

 そんな花穂の様子をじっと眺めていた輝は、何を思ったのかにっと口角を上げて笑い顔で近づいて来た。

 輝は途中で立ち止まったが、ふたりの距離は近く一メートルもない。

 ドクンドクンと不安で鼓動が更に大きく打つのを感じる。

「どうしたんだよ? もしかして口が利けなくなったのか?」

 黙ったままの花穂に輝は馬鹿にしたような言い方をした。いや実際馬鹿にしているのだろう。

(初めから私を下に見て貶(けな)してばかりだったもの)

 嫌な思い出が次々と浮かんでは流れていく。辛く苦痛だった日々。

(この人の我儘に私がどれほど我慢していたか)

 波風を立てたくなくて何も言なかったことで、彼をますます調子に乗らせてしまったのだろう。

 花穂は小さく息を吐いた。
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