偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
(会話なんてしたくないけど、このまま逃げたら、彼はますます私を馬鹿にしてからんで来るようになるかも)

 実家がここにある以上、いつかまた偶然会って声をかけられる可能性は十分ある。嫌だけれど無視はできない。

 それに機嫌を損ねた彼から逃げられるとも思えない。

「……輝さんお久しぶりです。今日は夫と実家に帰って来ました」

 花穂の言葉が余程意外だったのか、輝の切れ長の目が丸くなる。

「え、お前結婚したのか? 夫はどこだよ?」

 しばらくするとキョロキョロ辺りを見渡しはじめた。

「実家で父と話していますよ。私は足りないものが有ったので買い出しに」

 自分で思っていたよりもしっかりした声が出た。輝にとっても花穂の態度が意外だったのか、僅かに首を傾げてから袋でいっぱいの自転車の前かごに目を向けた。

「へえ酒か。旦那にこき使われてるみたいで大変だな」

 何を勘違いしたのか、輝がおかしそうに笑う。

 響一は決してそんな人ではないが、反論しても輝は聞き入れないだろう。

 不本意ながらも黙っていると、輝が思いがけない行動に出た。

「重そうだから俺が持ってやるよ」
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