偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 そう言いながら前籠(かご)に入っていた袋を持ち上げてしまったのだ。

「えっ、待ってください!」

 動揺した花穂がつい声を高くすると、その反応が気に入ったのか輝はもうひとつの袋も取ってしまう。

「返して欲しかったら、ちょっと付き合えよ」

「え?」

「これから会う予定だった相手にドタキャンされて暇なんだよ。お前でもいないよりはましだからな、暇つぶしくらいにはなるだろう」

「私はそんな時間はありません。夫が待ってるので早く帰らないと。その袋返してください」

 輝の行動が嫌がらせだと分かっている。彼は花穂が困ったり怒ったりするところを見るのが楽しいのだ。

(相変わらずひねくれてる)

 彼は花穂より三歳年上だ。今年二十八歳になると言うのに未だこんな真似をするなんて。

 三年経っても全く成長していない。でもそれは花穂もたいして変わらない。油断して今の状況を招き輝のペースに流されているのだから。

「一時間くらいなら大丈夫だろ? 酒は誰かに届けて貰えばいい」

「そういう問題じゃありません。とにかくその袋を返してください」

 花穂はきっぱり拒否してから、荷物を受け取る為に手を差し出した。

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