偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
「ホールに出るわ」
「了解」
花穂がキッチンを出ると同時に、オーダーが入り伊那も動き出す。
多少出入りは有ったものの、ホールは普段に比べると静かでやはり客入りが悪い。空いている席を確認しているとドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
振り向いた視線の先に居たのは広斗だった。
(この前来たばかりだけど)
日を置かずの来店ということは、アリビオを気に入ってくれたのかもしれない。
(響一さんみたいに常連になってくれるかな)
しかし広斗の様子に違和感を覚えた。彼はコーヒーを飲みに来たと言うより、何かを探すように店内を見回していたのだ。
「広斗さんお疲れさまです。もしかして待ち合わせですか?」
声をかけるとようやく花穂に気付いたらしく、はっとした表情になった。
「花穂さん、響一は来ていませんか?」
「いえ来ていませんが」
広斗のどこか焦ったような声に、花穂は戸惑いながら答える。
「あの、よかったらこちらへ」
いつまでも出入口で話していては邪魔になるので、あまり目立たない端の席に移動を促す。
広斗も状況を察したようで申し訳なさそうに着いて来てくれた。