偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる

　片瀬は近付く花穂に気付くとペコリと頭を下げる。

「ばたばたしているみたいですけど、どうしたんですか？」

　玄関の方向に目を向けながら問う。

「お騒がせして申し訳ありません。会長に急な来客がありまして」

「お客様が？　あのもし人手が足りていないようでしたら、私も手伝いますが」

　花穂としては気を遣っての発言だった。ところがなぜか片瀬の顔に動揺が浮かんだ。

「お気遣いありがとうございます。ですが仕事関係のお客様で、内密の話をするそうです。

その為人払いをするように指示されています」

「そうなんですか……分かりました。では私は部屋に戻りますね」

　片瀬の態度に違和感を覚えながらも、花穂は踵を返して離れに向かう。

　未だに本宅からざわざわしているような気配を感じるが、急な来客とのことだから急いでもてなしの準備をしているのだろうか。

（お祖父様は引退しているけど、まだまだ影響力がある人だと響一さんも言っていたし）

　相当人脈が広そうだ。目立つことを嫌う有名人のお客様が来るなど事情があるのかもしれない。