偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
はじめはハイスペック過ぎる響一に対して気後れしていた花穂だが、彼の会話術のおかげか気付けば自然に接することが出来るようになり、今では身構えることはない。
むしろ彼が来るのを少し楽しみにしているくらいだ。
「今日のスープは何?」
響一は席に着くと、メニューを広げざっと確認するように視線を動かす。
「きのことベーコンのクリームスープです」
「そう。じゃあそれで。あとはアイスコーヒーも頼む」
顔を上げた響一の顔は、優しさが滲(にじ)んでいた。
「かしこまりました。少々お待ちください」
花穂も微笑みを返して、厨房に向かう。
アリビオは提供する料理の種類が少ないほうだ。
響一がオーダーしたスープセットの他には、カレーと日替わりセット、デザートが二種程だけ。
料理人が拘り作っているものの、SNSで話題になるような独創的なものや、特別お洒落なメニューというものはなく、さらには価格は平均以上とアピールポイントがあまりない。
けれど、営業時間が夜十時までと遅いこと。
二十坪あるフロアに対し座席数が二十とゆったり落ち着いた雰囲気であることが、オフィス街で働く人々に好まれているようで、それなりに繁盛して、特にリピーターが多い。