偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 彼らは定期的に訪れ読書をしたりノートパソコンを机に置いて仕事をしたりと、居心地
がよさそうに各々ゆったり過ごしている。

 賃料が高いオフィス街で回転率を無視した営業ができるのは、このカフェのオーナーが
かなりの資産家で、儲けよりも自分の理想を追求した店づくりを重視しているからだ。

 花穂はキッチンに入りスープを器に注いだ。小さなサラダとバターがたっぷり染み込ん
だ焼きたてのパンをプレートに盛り付ける。

 アイスコーヒーと共に席に運ぶと、響一は文庫本を開いたところだった。

 彼は読書が好きなようで、ここに来るとぼんやりしているか、読書をしているかのどちらかだ。

「お待たせしました」

 花穂がスープセットのプレートをそっとテーブルに置くと、彼は本を閉じ視線を上げる。

「ありがとう。いい匂いだ」

「スープのチーズがかなり熱いので気を付けてくださいね」

「ああ」

 花穂が小さく礼をして下がろうとすると、「城崎さん」と呼び止められる。

「はい」
「この本読んだ?」

 響一が手元の本の表紙を花穂に向ける。
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