偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 花穂は素直に頷いた。彼が言う通り婚約する者同士が苗字で呼び合うのは違和感がある。

 問題解決の目途がついたからか嬉しそうな響一に花穂は微笑んだ。

 見合い相手が響一に変ったとはいえ、お金の為に愛のない結婚をするという事実は変らない。

 それでも彼でよかったと思えた。ずっと重苦しかった気持ちが安堵に変っていく。

「……ようやく笑ったな」

 響一が優しい眼差しで花穂を見つめる。

「今日は一度も本当の笑顔を見せてくれないから心配だったんだ」

「それは、緊張していましたから」

 よく見ていたのだなと驚くと共に恥ずかしくなった。

「リラックスして来た?」

「はい」

「それはよかった」

 そう言った響一がさり気なく花穂をエスコートして歩きはじめる。

「ここの庭園は見事だな」

「私も聞いた話なんですが、ここは本格的な日本庭園だと有名で、東京からわざわざ来るお客様もいらっしゃるそうです。紅葉と冬の雪景色が特に人気のようで」

 花穂もようやく景色を楽しむ余裕が出て来た。

「そうだろうな」

 橋を渡る前、足元に段差が有ったからか、響一がさり気なくてなく手を差し出した。

「ありがとうございます」
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