偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 六条家の御曹司である響一の妻という立場は、軽いものではないのだから。

 身だしなみにも、これまで以上に気を配らなくては。

 花穂は真剣に響一が選んだ服を手に取る。

(スーツとワンピースと、それに合う靴とバッグ……あとは何があればいいんだろう)

「気に入ったのが有ったらスタッフに伝えて。それから俺にも選ばせて貰っていいかな?」

「響一さんが?」

 なぜ?と首を傾げると、彼は魅力的に微笑む。

「妻を着飾るのは夫の特権だろ?」

 男らしさと美しさを感じる表情にどきりとした。

 思わず頬を染める花穂を満足そうに見つめた響一は、店内見回しあれこれ物色しているようだった。

 花穂は小さく息を吐き、落ち着かない鼓動を整える。

(響一さんって、あんな顔もするんだ)

 カフェで会話するときの彼は落ち着いた大人の男性という印象だった。けれど今は少し茶目っ気があり、それでいて甘い。
 どちらも魅力的ではあるが、想像していたのとは違う響一の態度に花穂は酷く戸惑っていた。

 恋愛感情なしで結婚したふたりだから穏やかな、カフェの延長上のような関係になると思っていた。

 仲良く暮らしていくにしても、お互い踏み越えないある一定のラインがあるのだと。
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