旧財閥家御曹司の愛妻渇望。 〜ご令嬢は、御曹司に甘く口説かれる。〜



「名前、で……」

「うん。もう、君の問題は解決した。無事婚約白紙に持って行けて実家との煩わしい義妹との縁も切れただろう。次は俺の番、だろう?」

「確かに、そうですけど。でも、名前で呼ぶだなんて初めてで……準備期間を、くださいっ」


 元婚約者の名前すら呼んだことなかったのに、はじめて呼ぶ人が自分よりも高貴なお方だなんて。


「……初めて?」

「はい。お恥ずかしいのですが……学生の頃は女子校だったので男性と関わる機会もありませんでしたし、元婚約者も苗字で呼んでいました。だから、初めてで」

「そうか……初めてって、言葉、男が弱いの知ってて言ってんのか? いや、知らないかぁ」


 天浬様は何かブツブツと言いながらため息を吐く。私は一度呼んでみようと深呼吸を一度して、まず「て」と呟いてみる。


「て……てんり、さま」

「様は要らないんだけど?」

「あっ、はい……天浬さん」


 心の中でも「天浬さん」と呟いて彼の顔を見た。目が合って、今更だけど恥ずかしくなって照れる。


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