旧財閥家御曹司の愛妻渇望。 〜ご令嬢は、御曹司に甘く口説かれる。〜
一年後、私は。
「……ありがとうございましたー!」
「美味しかったよ、またね」
あれから一年経った。私は田舎にある島にある食堂で働いている。あの日、私は臨月を迎えて男の子を出産した。
天浬さんはもちろんのこと、お義父様もお義母様も喜んでくれて子供のことを喜んでくれた。私も会いたかった子に会えて人生で一番嬉しかったのを今も覚えている……だけど電話のことが思い出されて、私は動けるようになってすぐ逃げるように病院から抜け出した。
事前に書いた離婚届と指輪を置いて、彼の元から去った。
天浬さんが好きだと言ってくれた長かった髪も切った。思い出して泣いてしまうから。
彼から見つからないようにするためになるべく遠い場所で選んだのがこの島。
「結鈴ちゃん、もう休憩していいよ。人いなくなってきたから」
「ありがとうございます、じゃあ休憩いただきます」
私は食堂から出て浜辺でお弁当を広げる。
この島に来た時、働く場所を探したのだけどなくて彷徨っていた時に住み込みで雇ってくれたのがここの食堂の榊原ご夫婦だ。
店主である旦那様の智さんに奥さんの吏美子さん。とても優しい人たちに出会えて私は幸運だと思う……でも、ふと思い出してしまう。彼と自分の子のことを、考えてしまう。
彼は好きな人と一緒になったんだろうか、私がいなくなって喜んだかなぁ