旧財閥家御曹司の愛妻渇望。 〜ご令嬢は、御曹司に甘く口説かれる。〜
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私は、吏美子さんに友人が来たから少し喫茶店に行ってくると告げ近くにある小さなお店にやってきた。……きっと、天浬さんは目立つから明日には噂になってるんだろうなと思ったけど話す場所はここしかない。
「いらっしゃい〜、結鈴ちゃんじゃん。今日は吏美さんと……あ、うん二人ね」
「ありがとう、マスター」
私は何度か来た喫茶店で慣れたように奥まっている半個室のテーブル席に天浬さんを案内した。
「……天浬さんは何にしますか?」
「じゃあ……アイスコーヒーを」
「わかりました。ちょっと待っていてください」
彼は驚いた顔をしていたけど、私はマスターの元に向かう。
「マスター、アイスコーヒーとアイスミルクティーちょうだい」
「はいよ。今日はアップルパイがちょうど焼き上がったからそれも付けとこうかね」
「本当に? ありがとう、マスターのアップルパイは美味しいから嬉しい。出来たら取りに行くから呼んで」
「悪いねぇ……じゃ、遠慮なく呼ばせてもらうわね」
マスターはこの島で生まれてこの島で育った人で八十歳。最近腰やら膝を悪くしてしまって思うように動かせないらしい。だから客だけど、マスターの元に注文しに行くし取りに行く。マスターには常に優しくしてもらってるし、こんなの島では当たり前で困ったら助け合うことが暗黙のルールみたいなものだ。
だけど都会に住んでる時はそんな喫茶店で助けるなんてことしたことなかったから初めて見た時は新鮮だったのを今でも覚えている。
そんな姿が素敵だと思えたからこの島が大好きになった。