桜ふたたび 後編
リビングのドアを開けて、千世は喝采を上げた。

「すっご~い! 広~い! お洒落~! 何これ、メゾネット? うっそぉ、でっかいテレビ!」

千世は子どものように興味津々、スーツケースをほったらかして、遠慮もなくあちこちを見歩いてはしゃぎ声を上げている。メゾネットの寝室まで探索してようやく満足したのか、リビングのソファーにどすんと両手両足を投げ出し座ると、口を開けて吹き抜け天井を見上げ、つくづくと言った。

「あ〜ええなぁ、こんなリッチな生活、うちもしてみたいわぁ」

澪は苦笑った。
広いと掃除も大変だし、キズでもつけたらどうしようと、毎日ビクビクしているのに。澪には京都のアパートの方が住み心地がよかった。

「どのくらいかかった?」

「三時間ちょっと。京都へ帰るより速いわ。しっかし、すごいな。エントランスホールなんか高級ホテルかと思うたわ」

言いながら落ち着きなく窓へ首を伸ばし、今度はウッドデッキのルーフバルコニーへ駆け出て、手すりを掴み身を乗り出すように眺望を堪能している。

「ケーキ、食べる? お天気もいいし、外にしようか?」

「いい眺めやねぇ。東京って、案外緑が多いんや」

「この辺はお寺さんや学校が多いから」

千世はウキウキした顔で戻ってくると、コーヒーテーブルに出されたモンブランケーキに生唾を飲み込んだ。

「バルコニーのソファーでアフタヌーンティーやなんて、まるで高級リゾートやん。そやのに」

は〜と息を漏らして、花のプランターの一角を顎で指し、

「ネギにピーマンってなんやの! 相変わらず貧乏くさいなぁ」

相変わらず言いたいことをズバズバ言う。久しぶりに直球で入ってくる会話が、澪には心地いい。
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