桜ふたたび 後編
千世はさっそくフォークを手に、

「それで、結婚式は決まった?」

「結婚式? するのかな? そんな話したこともなかった」

段取り魔のジェイが今まで挙式について触れなかったのは、おそらく澪の躊躇を察しているからだ。
カソリックの結婚は神に誓うもの。彼とて、上辺の宣誓をさせることは許されない。

千世は栗を丸ごと口に、もぐもぐさせながら、

「あのなぁ、男って、そう言うことに全然興味ないから、こっちからせっつかんとあかんのよ。ほんまのほほんとしてるなぁ、澪は」

「そうかな?」

「そうやん」

ふたりは顔を見合わせ吹き出した。

「セレブの結婚式なんて初めてやしさ、うち、めっちゃ愉しみにしてるんよ。やっぱ、式場はニューヨーク? 間とってハワイとか? モルディブなんかもええなぁ」

当事者より乗り気で、最後は自分が行きたい旅行先になっている。

「そのあとこっちでも披露宴しような。京都やなく東京でさぁ。やっぱ都会はええわぁ。うちなんか、めっちゃド田舎よ。廻りは田んぼばっか、夏なんか蛙がうるそうて寝られへんかったわ」

しゃあしゃあと言う千世に、一度寝たら地震があっても朝まで起きないくせにと、澪は心の中で笑った。

「歩いて十分のところにコンビニはできたんやけどね、武田の親戚筋やから、ポテチ買うのも気ぃ使う」

「大変ねぇ」

「何が大変って、年がら年中ある村の行事やわ! 氏神様やら、どこぞの家の法事やら、草刈りや溝さらいやらって、そのたんびに駆り出されて、忙しないったらありゃしない。それにしきたりの多いこと! 特にうちは本家の嫁やさかい、注目度が高いんよ。ちょっとでも気ぃ抜いたら、後から何言われるかわからへんやろ? ほんま、お手当ぐらい欲しいわ」

文句ばかり言う割に、愉しそうだ。社交家でイベント好きの彼女には、つきあいの多い田舎生活が性にあっているのかもしれない。
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