桜ふたたび 後編
澪は何か引っかるものを感じた。
千世は自他共に認めるグルメ評論家だ。特にスイーツにはうるさい。その彼女が、董子が贔屓にしてる有名パティスリーのケーキを前に、一言もない。マスコミに何度も紹介された背の高い独特のフォルムだから、気がつかないはずがないのに。

「千世、何かあった?」

「だからさっきから言うてるやん。いわゆるストライキってやつよ。嫁として正当な権利を主張してやろうと思うて。それより、電話で言うてたそのサロン? 体験入学とかさせてもらえへんの?」

「え? あ、ごめん、それは無理だと思う」

「何や、残念やなぁ。うちもフィニッシングスクールに通いたかったなぁ。田舎生活では夢のまた夢やわ。澪はええなぁ、セレブの一員で」

「フィニッシングスクールに通ったからって、セレブになれるわけじゃないよ。わたしなんかちっとも変わらないし」

「そんなことあらへんって」

千世は澪の顔を覗き込んで、

「そう言えば、お顔立ちもお上品にならはりましたわよ、マダ〜ム」

「やめてよ」

「冗談、冗談! 相変わらず脳天気な顔してるわ」

「そっちの方が悪い!」
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