桜ふたたび 後編
『私は今後もカルロスを解雇するつもりはない』

『二人も元犯罪者を雇うなど、正気の沙汰じゃない!』

『ウィル、我々が正義を声高に言える立場か?』

言葉を糧にする辣腕弁護士も、ぐうの音も出なかった。

確かにジェイもウィルも、不正ぎりぎりのグレーゾーンに常に立っている。
正義と悪は紙一重、見方によってはジェイこそがヒールなのだ。
事実、殺人こそ犯してはいないが、彼の策略によって追い詰められ自ら命を絶った者もいる。
ウィルの脳裏に、苦いシーンがよぎった。

『しかし調査室は危険すぎる』

『餌は生きたまま泳がせておく』

言葉の真意を図りかねて、リンとウィルは眉を潜めてジェイを見た。

『レオ、数字当てをするのなら、硝子トップテーブルは止めた方がいいな』

ジェイはしらっと言った。

『カードを伏せる際に反射している。カールの脚は長いから』

ハッと、レオはカールの足元を見た。なぜか気に入った巨大なエナメル靴を履いている。

やられましたと額を叩くレオに、ウィルは気が抜けたように椅子にどっと腰を下ろした。

『とんだサイキックだったな』

『カールはサヴァンだ。超人的な動体視力と驚異的な記憶力で、瞬時に確率計算を行っている。文字を単語としてではなく、記号や数字としてとらえ、かつ四次元で認識しているようだ。上手く活用してくれ』

ローラは、突然訪れた幸運に、まだ信じられないのか呆けたように座り込んでいる。
レオに促されようやくふらりと立ち上がると、何度も何度も深々と礼をして、何も理解していない息子の手を引き、蹌踉とリビングの奥へと消えていった。
少女たちの明るい笑い声に迎えられて──。
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