桜ふたたび 後編
「千世? どうしたの?」

へへっと千世は笑った。

「ツッチーが六本木に連れて行ってくれるって言うから、迎えにきたんよ」

「ツッチー?」

見ると、千世の背後に駐まっているタクシーの傍らに、辻が立っている。食えない笑顔で「ヨッ」と片手を挙げた。

「千世!」

用心していたはずなのに、いつ約束など取り付けたのだろう。本当に千世は侮れない。

「すみません、今日はこれで」

好奇心丸出しに見ていた優子たちは、目をぱちくりさせた。

「え? ええ、それではまた来週」

「さようなら」

会釈の途中から、澪は千世の腕を掴んで歩き出していた。

「痛い! 痛いって! 何よ?」

「……」

言いたいことは山ほどあるのに、何から言えばいいのか収集がつかない。
それを見越して、千世は攻勢に転じた。

「だいたい、なに、あの気取った奴ら。あんたも付き合う人間選びぃな」

「あ……、でも……」

「ほら、スマホ、鳴ってるえ」

「え?」

バッグの中に気を取られた瞬間、千世に逃げられた。「もう」と情けない声を出す澪を尻目に、さっさと辻の元へ駆け寄り、腕など組んでいる。
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