桜ふたたび 後編
〈……澪さん?〉

消えそうに遠慮がちな男の声に、澪は首を傾げた。

「はい?」

〈あの、武田です〉

「あ、こんにちわ、ご無沙汰しています」

澪は目の前の光景が伝わってしまわないかとドギマギした。

「えっと、あの、千世ですか? 替わりましょうか?」

〈やっぱり、澪さんのところでしたか……〉

「え?」

澪は思わずスマホを耳に押し付けた。

「千世、武田さんに黙って出てきたんですか?」

〈いえ……、それが……〉

「ちょっと待ってください。今、替わりますから──」

〈いえ!〉

いつも穏やかな武田の強い口調に、澪は怯んだ。

武田は声を荒げたことを恥じたのか、電話口で長い息を吐いて、それから詮索を懼れるように早口に言った。

〈すんません、ええんです。澪さん、千世ちゃんのこと、お願いします〉

「え? お願いって? 何を? 武田さん? 武田さん!」

何度呼んでも、応えはない。一方的に切られた電話に、澪は困惑した。
そうだ、何か違和感を感じると思ったら、千世は一度も、武田の話をしていない。

愕然と立ち尽くす澪に、千世ははち切れんばかりの笑顔で大きく両手を振った。

「澪! 早う!」
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