桜ふたたび 後編
六本木のダイニングバーからニューハーフのショーパブにつき合わされ、まだまだ遊ぶ気満々の千世を引き摺って帰宅した頃には、もう深夜を回っていた。

「あ~、広いお風呂はほんまええなぁ。うちもジャグジーにしてもらおうかなぁ」

千世は風呂上がりのさっぱりした顔で、冷蔵庫から缶ビールを取りだすと、カウチに足を伸ばしのんきに言う。
難しい顔でソファーに腰を降ろした澪は、大きく肩で息を吸ってから言った。

「千世」

千世は喉を鳴らしてビールを呑むと、口元を拭って澪を見た。

「何よ、辛気臭い顔して」

「武田さんから電話があったよ」

千世は一瞬ピクリとしたが、すぐにつまらなそうにテーブルのポーチに手を伸ばした。

「ふ~ん、よう電話番号がわかったな。あ、あいつ、うちの手帳、盗み見したな」

言いながら紫のマニキュアを選ぶと、ペティキュアを塗りながら、

「明日、何時に出る? 早起きはちょっと辛いなぁ。混むのもいややけど」

「千世」

「あ~、もう、鬱陶しい!」

千世は逆ギレして、澪の顔も見ずに言った。

「ええやん、うちかてたまには一人になりたいときもあるて」
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