桜ふたたび 後編
毎日、朝から張り切って遊びに出かける千世に、正直、澪は呆れていた。それが悩ましさや悔しさを紛らわす擬態だと、どうして気づかなかったのだろう。ときおりぼんやりとスマホを見つめては溜め息を吐いたり、お笑い番組を観ながら笑っていなかったり、おかしなところはいくらでもあったのに。

千世の懊悩を察してやれなかった鈍さが憎い。何よりも、無理矢理彼女に吐露させて、傷口を広げてしまった無神経さが憎い。

千世は哀しい薄笑いを浮かべて言った。

「うちはとうに覚悟はできてるんよ。そやからそんな辛気くさい顔せんといて」

「覚悟って……」

「もうどうにもできひん。あとふた月もしたら、生まれるんやもの」

絶望的な思いに澪が目を瞑ったとき、千世は幽鬼のように呻いた。

「卑怯やわ、子どもを武器にするやなんて」
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