桜ふたたび 後編
ルナは疲れたように息を吐いた。

「ジェイから、何か訊いている?」

「いいえ、何でしょう?」

再びルナは口を閉ざした。やがて沈黙に耐えられないと言うように、彼女は目を瞑った。

「いずれ、あなたにもわかることだから……」

そう前置きしてから本題に入るまで、長い長い空白があった。

「今度、AXグループとロイヤル・シェルグループが、Partnersshipを結ぶことになったの。二週間後、パリで正式発表が行われる記者会見で──」

そこで言葉に詰まり、詰まったものを押し出すように、ルナは一気に言った。

「ジャンルカ・アルフレックスと、ロイヤル・シェルグループのデュバル会長の娘とのengagementが発表される」

「婚約?」

澪は小首を傾げた。自分には縁のない芸能人の話のようで、咄嗟に理解できなかった。

「ごめんなさい」

力なく項垂れるルナに、澪は息を呑んだ。

「力になれない私を赦して……」

澪は漠然と彼女を眺めていた。唇を噛み締める苦しげな横顔が、ジェイと重なった。

──ああ、そうか。ジェイはほかの女性と結婚するんだ。

これでもう、サロンに通わずにすむ。そんな他愛のないことを考えている自分がおかしかった。
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