桜ふたたび 後編
澪はそっと掌を見つめた。
やはり幸せは、望んだ瞬間に指の隙間から零れてゆく。それは、人の幸せを奪って生まれてきた者の宿命なのかもしれない。宿命なら甘受するしかない。

──だけど……。

澪は不慮の現実に、途方に暮れたように下腹部に目を落とした。

ジェイが結婚するのなら、この子はどうなるのだろう。ふたりが望んで愛し合った結果だ。誕生を秋毫も疑わなかった。それなのに、父親に存在も報されぬまま、葬られなければならないの?

澪はそっと腹に手を当てた。温かい。感じるはずのない微かな心音が伝わってくる。

澪は再び掌を見つめた。そしてゆっくりを指を折って、ぎゅっと拳を固めた。

「大丈夫です」

澪は静かに顔を上げた。
驚くルナに微笑むと、もう一度はっきりと言った。

「大丈夫です。何があってもわたしはジェイを愛していますから」

ルナは暗い目で首を振った。出口のない愛を見るように。
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