桜ふたたび 後編
「千世ちゃんが心配していたとおりだ。君は遊ばれたんだよ。残念だったね」

怒りに振り返ったとたん、下腹部に抉るような痛みが走った。
澪は両手で腹を押さえ、恐る恐る足元を見た。

「これからどうする? この豪華マンションにももう住めないっしょ」

「あなたには関係ない」

澪は弛んだねじを巻くように、よろよろと歩き出した。バッグの中で鍵を探る指先が震えて、自動ドアがどんどん遠ざかってゆく。

「まあ、訊いてよ」

と、馴れ馴れしく肩を掴む手を、

「放して!」

振り払った瞬間、澪は声にならない悲鳴を上げた。

何かが体内から流れ出てゆく。内股を伝うどろりと生暖かい感覚。子宮を絞るような激痛に澪は腹を押さえ前屈みに膝をついた。硝子越しに美しい鱗雲が涙に霞んだ。

「澪さん? どうした?」

慌てて肩を抱く辻に、澪は縋るように訴えた。

「お願い、助けて、ジェイの赤ちゃんが……」
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