桜ふたたび 後編
「澪さんのご様子は?」
柏木は皆目わからんと首を振った。
状況を尋ねられるナースでもいないかと首をめぐらした恭子の視線が、待合い用の長椅子に止まった。「なんで?」と、眉根を寄せた眼で無言で問われて、柏木はようやく辻の存在の不自然さに気づいた。
どういう経緯で澪と会っていたかは知らないが、彼をインテリアコーディネータとしてふたりに紹介した際、きっぱりと忠告したはずだ。不用意に澪に接触するなと。
あの日、がらんどうのフロアに座り込み、故意なのか無意識なのか澪にかなり密着してプレゼンする辻を、階段の途中に腰掛け見下ろす氷柱のような視線。
何事も冷徹な彼が、澪に対してのガードだけは恐ろしく激しいことを、柏木は身を以て知っている。弟の義弟がここにいることは、非常にまずい。
「時宗君」
辻は頭を抱えたまま、自責の念を湛えたどんよりとした目を上げた。
「悪いが、君は帰ってくれないか」
辻は蒼白の顔を横に振った。
「帰り給え!」
怒声が廊下に響いた。察するところがあるのか、恭子も厳しい表情で加勢する。
辻は、気圧されたように重い腰をふらつきながら上げ、廊下の壁伝いに歩き出した。肩を落として足を引きずり、数歩歩いては壁に寄りかかるようにぶつかっている。
まるで殺人直後の放心状態だ。これでは罪を自白しているようなものではないか。
曲がり角で足を止め、そろりと未練に振り返る辻を、柏木は鋭い眼光で追い払った。
今回の原因が彼に関わりあるとなったら……。想像するのも恐ろしい。
柏木は皆目わからんと首を振った。
状況を尋ねられるナースでもいないかと首をめぐらした恭子の視線が、待合い用の長椅子に止まった。「なんで?」と、眉根を寄せた眼で無言で問われて、柏木はようやく辻の存在の不自然さに気づいた。
どういう経緯で澪と会っていたかは知らないが、彼をインテリアコーディネータとしてふたりに紹介した際、きっぱりと忠告したはずだ。不用意に澪に接触するなと。
あの日、がらんどうのフロアに座り込み、故意なのか無意識なのか澪にかなり密着してプレゼンする辻を、階段の途中に腰掛け見下ろす氷柱のような視線。
何事も冷徹な彼が、澪に対してのガードだけは恐ろしく激しいことを、柏木は身を以て知っている。弟の義弟がここにいることは、非常にまずい。
「時宗君」
辻は頭を抱えたまま、自責の念を湛えたどんよりとした目を上げた。
「悪いが、君は帰ってくれないか」
辻は蒼白の顔を横に振った。
「帰り給え!」
怒声が廊下に響いた。察するところがあるのか、恭子も厳しい表情で加勢する。
辻は、気圧されたように重い腰をふらつきながら上げ、廊下の壁伝いに歩き出した。肩を落として足を引きずり、数歩歩いては壁に寄りかかるようにぶつかっている。
まるで殺人直後の放心状態だ。これでは罪を自白しているようなものではないか。
曲がり角で足を止め、そろりと未練に振り返る辻を、柏木は鋭い眼光で追い払った。
今回の原因が彼に関わりあるとなったら……。想像するのも恐ろしい。