桜ふたたび 後編
ジェイの辛い心情もわかる。自分も同じ立場に立たされれば、果たして仕事を放り出して、妻の元へ駆けつけられただろうか。

家族を愛している。家族の生活のために働いている。それが、大切な家族の幸せを守ることだから。
しかし、それは企業戦士を気取る男の詭弁だ。
仕事の充実こそが自己肯定。仕事を中断したことで、評価に影響することがこわい。
真実、保身より家族を思うなら、例え制裁を受けようとも、不安な心に寄り添ってあげることが愛なのだろう。

──彼女は去るかもしれないな。

愛する男のため意に添わないことも辛抱して努力してきたのに、将来の約束を反故にされ、子どもを失い、拠り所となる愛情さえも遠い。これほどの試練を一人背負わされ、女は男を赦せるだろうか。

月のない空が虚しくて、柏木はやるせないため息を吐いた。
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