桜ふたたび 後編
澪は平原を彷徨っていた。
風が鳴っている。
腰丈ほどの細い青草が、右から左へ波打ち流れていた。ときおり踏ん張り切れず抜けた草が、勢いよく巻き上げられ、空にくるくる吸い込まれてゆく。見上げると、黄色い空に血のように紅い双子の太陽があった。

〈結婚して、子どもをつくって、私と澪が得られなかった温かい家庭を共につくろう〉

ジェイの声がした。
澪は辺りを見回した。彼の姿はどこにもなかった。

風が唸りを上げて、澪の足下から吹き上がった。澪は思わず目を瞑り、両手で腹を庇った。

風が止んだ。目を開けると、少年がいた。こちらに背を向けて佇んでいる。

「あなた、誰?」

振り返った少年は、その手に赤ん坊を抱いていた。

「待って、わたしたちの赤ちゃんをどこへ連れて行くの?」

少年は哀しそうに答えた。

「言ったでしょう? 望むから失うんだって、──ほら」

少年の視線の先にジェイがいた。顔のない女と並んで立っている。ジェイは澪を見ることなく背を向けた。

「ジェイ……」

突然、顔のない女が澪に迫り、黒い唇を耳元に寄せた。

「言ったでしょう? 神様は赦さない」
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