桜ふたたび 後編
「なぜ?」
「わたしが幸せになろうとすると、必ず誰かが傷つく。きっと、母が、わたしを利用してひとを傷つけてきたからです。璃子さんも、柚木さんも、クリスも、わたしがいなければ幸せだった。だから、望んではいけない。望めば……失う……」
澪は自分に言い聞かせるように言った。
「澪は不幸なことが喜びなんだ」
極論に、澪は面食らった。
「目の前の幸せを、必死に掴みに行くことが、浅ましいと思っているんだろう?」
「そんなことありません」
「誰もが幸せになろうと努力しているのに、澪は不遜だ。誰かが幸せになれば、その陰で多かれ少なかれ不幸になる人間はいる。どうせ傷つけるのなら、傷つけた分幸せになればいい。それが相手に対する礼儀だ。それを中途半端に譲ろうとするから誰も救われない。結局、澪の自己満足なんだ」
有無を言わせない口調、ジェイを本気で怒らせてしまったみたい。こうなると、澪は抗弁すらできない。
「恰好つけてるんだよ、澪は。いつも人の目ばかり気にして、誰にも本心を明かさない。強情で嘘つきだ」
「嘘なんて──」
「信じると誓ったのに、少しも信じていない。澪の〝信じる〞は、〝信じる〞ではなく〝信じたい〞だ。いつでも裏切られた時のことを想定して、だからすぐに弱気になって、独り善がりに諦めてしまう」
「……」
「澪……」
声のトーンが下がった。瞳は暗い夕闇の色をしていた。
「わたしが幸せになろうとすると、必ず誰かが傷つく。きっと、母が、わたしを利用してひとを傷つけてきたからです。璃子さんも、柚木さんも、クリスも、わたしがいなければ幸せだった。だから、望んではいけない。望めば……失う……」
澪は自分に言い聞かせるように言った。
「澪は不幸なことが喜びなんだ」
極論に、澪は面食らった。
「目の前の幸せを、必死に掴みに行くことが、浅ましいと思っているんだろう?」
「そんなことありません」
「誰もが幸せになろうと努力しているのに、澪は不遜だ。誰かが幸せになれば、その陰で多かれ少なかれ不幸になる人間はいる。どうせ傷つけるのなら、傷つけた分幸せになればいい。それが相手に対する礼儀だ。それを中途半端に譲ろうとするから誰も救われない。結局、澪の自己満足なんだ」
有無を言わせない口調、ジェイを本気で怒らせてしまったみたい。こうなると、澪は抗弁すらできない。
「恰好つけてるんだよ、澪は。いつも人の目ばかり気にして、誰にも本心を明かさない。強情で嘘つきだ」
「嘘なんて──」
「信じると誓ったのに、少しも信じていない。澪の〝信じる〞は、〝信じる〞ではなく〝信じたい〞だ。いつでも裏切られた時のことを想定して、だからすぐに弱気になって、独り善がりに諦めてしまう」
「……」
「澪……」
声のトーンが下がった。瞳は暗い夕闇の色をしていた。