桜ふたたび 後編
「今回の縁談を仕組んだのは、マティーだ。彼女は、澪との結婚を反対している」
当然だと、澪は頷いた。あのカトレアのような高貴な女性が、野辺の草を嫁と認めるわけがない。
ジェイは澪の考えを読んだように首を振った。
「君が、日本人だから」
あっと、澪は両の手で頬を覆った。
なぜこんな重大事に気がつかなかったのだろう。ナターレでの彼女の態度。ジェイが桜の下で澪に実母の面影を見たように、この容貌が、彼女の古傷を抉った。
真相を明かせば澪が己を責めるとわかっていたのか、ジェイは大きく息を吐くと、澪の左手を引き寄せリングに頬ずりした。
「私が欲しいのは澪だけだ。だから、彼女のために何かを犠牲にするのは、もうやめた」
澪は当惑と哀しみの混ざった顔でジェイを見つめた。
「家を捨てるのですか?」
「澪がそうしたいというのなら、ふたりで逃げてもいい」
澪はしっかりと首を振った。ジェイは少し残念そうにやはりと片頬をあげた。
「それなら、覚悟を決めてくれ。私たちはすでに嵐のなかにいるんだ。澪がここで灯りを点し続けてくれなければ、私は難破してしまう」
ジェイは切実に言って、一度目を閉じた。拳を唇に当て、云うか云うまいか迷っている。こんな彼を見るのは初めてだった。
当然だと、澪は頷いた。あのカトレアのような高貴な女性が、野辺の草を嫁と認めるわけがない。
ジェイは澪の考えを読んだように首を振った。
「君が、日本人だから」
あっと、澪は両の手で頬を覆った。
なぜこんな重大事に気がつかなかったのだろう。ナターレでの彼女の態度。ジェイが桜の下で澪に実母の面影を見たように、この容貌が、彼女の古傷を抉った。
真相を明かせば澪が己を責めるとわかっていたのか、ジェイは大きく息を吐くと、澪の左手を引き寄せリングに頬ずりした。
「私が欲しいのは澪だけだ。だから、彼女のために何かを犠牲にするのは、もうやめた」
澪は当惑と哀しみの混ざった顔でジェイを見つめた。
「家を捨てるのですか?」
「澪がそうしたいというのなら、ふたりで逃げてもいい」
澪はしっかりと首を振った。ジェイは少し残念そうにやはりと片頬をあげた。
「それなら、覚悟を決めてくれ。私たちはすでに嵐のなかにいるんだ。澪がここで灯りを点し続けてくれなければ、私は難破してしまう」
ジェイは切実に言って、一度目を閉じた。拳を唇に当て、云うか云うまいか迷っている。こんな彼を見るのは初めてだった。