桜ふたたび 後編
「あっ、ルーフバルコニーを見に行こう。眺めは抜群だし、ガーデニングにも充分な広さなんだ。ああ、二階のベッドルームを見る? それとも、バスルームが先か」

メスを迎える鳥の営巣でもあるまいし、躍起になって言うから、澪は思わず吹き出してしまった。

「あんまり立派すぎて、驚いただけです。それに、わたしは、ジェイがいればそれでいいから」

「澪──」

感に堪えないと唇を塞がれて、何か勘違いさせることを言ったかしらと、澪は首を捻った。

唇に触れながらジェイは言う。

「Love me do(私を愛して)」

彼はよくこんな風に、好きで好きでたまらないという切ない瞳で、澪に愛を確かめるようになった。

「Yours forever(永遠にあなたのものよ)」

安心して表情を崩す彼が愛おしくて、彼のためなら一日中愛を囁いてあげようかと思ってしまう。

不思議だ。
人間関係を築くことが苦手で、相手との距離が近くなるといつも不安になって逃げ出していたのに、いつの間にかこんなに近くに彼がいる。

空っぽだった心が彼への愛情で充たされて、安らぎと慈しみに包まれる。

──すごく幸せ……。

そう思ったとたん、不安がよぎった。

誓いを忘れた者には、いつか神罰が下るだろう。誰かがそう告げたような気がした。
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