桜ふたたび 後編
「お互いに……、過去の亡霊に囚われるのはもうよそう」

ジェイはそっと澪の頬に手をやった。

「澪が私の弱さも醜さも愛してくれるように、私も澪のすべてを愛している。生い立ちも、過ちも、すべて」

澪はハッと息を止めた。ジェイは知っている……?

「私は澪の笑顔が見たい。幸せで幸せで堪らないという笑顔が見たい。そのためならどんなことでもする。澪を苦しめる悪魔からも亡霊からも、私が盾になって守ってあげる。澪も私のために戦ってくれないか?」

澪はぽろぽろと落涙した。すうっと憑き物が落ちたように、何の思いもなく、大きな真珠の雫が瞼の堰などあっけなく越えて溢れていた。

彼にだけは知られたくなかった過去。隠し通そうとして、心の膿をますます悪化させていた。
それなのに、ジェイは澪の罪を識って、それでも愛してくれていた。背に搦んだ亡霊から、澪を解き放とうとしてくれていた。

ジェイは指先で涙の珠をそっとを拭い取ると、胸にかき抱き言った。

「今、私たちのために大勢のスタッフが動いているんだ。一分一秒でも無駄にはできない。それなのに、今日みたいに澪が心配で、私が足を止めてしまったら、みんなの努力が無駄になる」

ジェイの胸のなかで、澪は涙のまま頷いた。

「誠一が言っていた。澪は船を導く水路のことだと。どんな困難な旅であっても、希望へと導いてくれると。忘れないで。離れていたって、澪がいるところが私の家だ」
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