桜ふたたび 後編
「よかったね、千世」

「そやけど、脩平が浮気したのは事実やん?」

「武田さんも充分反省してるよ」

「そやし、○ィズニーランドで勘弁してやったんよ」

澪は、嬉しい意外さに、頬を緩めた。
今までの千世だったら、一度の過ちも我慢できずに別れていた。それが、武田を赦し、彼女を思いやっている。

──これも愛のお陰なのかな。

「なんよ、気色悪いなぁ」

千世は照れくささを隠すように、澪のガトー・オー・ショコラに手を伸ばした。

「なぁ、ツッチーどうしてる?」

澪はドキッとした。彼とは短いつきあいだったけど、強烈な印象が残っている。
いつも澪の心の中の悪魔の声を、代弁して再認識させてくれたひと。苦手だったけれど、嫌いではなかった。

澪は動揺を隠すように、さりげなく世間話を装った。

「インテリアの勉強をしに、デンマークへ行ったって」

見舞いの花に、そう手紙が添えられていた。
恭子曰く、柏木のバックアップという名の圧力があったらしい。
あのときその場にいたというだけで、彼には何ら罪はないのだけれど、それだけでもばれると譴責されるとか何とか……。
とにかく、勉強はいいことだ。

「なんや、結局、玉砕かぁ。やっぱ、最後に愛は勝つ! やねぇ」

千世は感心したように言って、嬉しそうに笑った。
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