桜ふたたび 後編
真意を図りかねてルナが唇を開こうとしたとき、人垣がさわさわとさざめいた。
さざめきは波動のように確実にこちらに向かって近づいている。
突然、目の前の人壁が幕を引くように左右に割れ、モーゼの如くアブドラとクリスが現れた。

『見つけましたよ』

アブドラは雅やかな笑顔で言った。

『おお、そちらが噂のフィアンセですね』

サーラは可憐に膝を折った。

淡いモスグリーンのソワレは、花びらをモチーフに胸元がカッティングされ、ビスチェ部分にはパールの花心のツルバラが、トレーンには蔦柄が美しく刺繍されていた。
ところどころに薄青と白の羽根があしらわれ、彼女の動きに併せてふわふわと揺れる。まるで秘密の花園に棲む青い鳥のように。

『妹のルナです』

優雅なカテーシーに流れるように沿う黒いソワレは、臍まで空いたドレスの胸元とサイドラインに、レザー紐のメッシュが施されていた。こちらは美しき黒豹のようだ。

『サーラ、こちらはシェイク・アブドラとクリスティーナ・ベッティ。ご紹介が遅れましたが、彼はリチャード。殿下とは古くからのご友人です』

すみれ色の瞳とモスグレイの瞳が、引き合うように見つめ合ったと感じたのは、ルナの錯覚だろうか。

『妹御といい、ガールフレンドといい、フィアンセといい、あなたの周りは美姫揃いだ』

嫌みなく言って、アブドラは気品ある笑い声を立てた。
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