桜ふたたび 後編
ジェイは宙を見つめた。とんだ藪蛇だ。

「澪──」

寝返りを打った白い肩が、無言で抗議している。

「ごめん」

「いいえ、わかってます。仕事に女連れでは拙いですよね。パリも近いし……」

そんなに怒らせたのか、澪が厭味を含ませるなど珍しい。

「澪、こっち向いて」

ジェイは宥めるように言った。

「……」

「向けよ」

体を起こして力ずくで裏返すと、澪はオセロのように呆気なく上を向いた。

「そんなにバハルへ行きたかったの?」

澪は哀しげに見つめる。

「仕事が片付いたら連れて行ってあげるよ。Abu DhabiでもIstanbulでも」

澪は顔を左右にする。

「ああ、海がいい? BahamasかCancun」

「……」

「澪」

「……離れていると、不安で……」

澪は消え入りそうに言った。
< 158 / 271 >

この作品をシェア

pagetop