桜ふたたび 後編

4、カメオ

タクシーを降りたとたん、冷たい潮風が頬を掠めた。
ジェイの腕が寒さに肩をすくめた澪の背を包み込む。澪は体を寄せ、足下に目を落とした。

ふたりの前を白装束の老夫婦が歩いている。菅笠を被り、履き古された草鞋を履き、チリンともの哀しい鈴の音が、金剛杖をつく度に響いた。つと妻が足を取られ、老いた夫が手を差し伸べて支えた。

こんな仲睦まじい夫婦でも、心に迷いや苦悩を持ち、巡拝の旅を続けているのだろうか。

「ジェイ」

「うん?」

澪は口を噤んだ。いま彼もまた、心の巡礼を続けているのだろうから。

大地を踏みしめるように歩き続けるふたりの前に、やがて激しい潮騒とともに蘇鉄の向こうに白亜の灯台が見えてきた。ずんぐりとした体で、荒風の中、紺碧の太平洋を睨みつけているようだ。

「地球は丸いんですね」

展望所から望む水平線は、緩やかに弧を描いていた。

「そうだね」

遠い目をして、ジェイは呟くように言った。

ヒューヒューと篠笛のように風が泣いている。ゴツゴツとした岩肌に白波が砕け散って、底鳴りのような疾風が唸った。

この旅の目的を、澪はとうに悟っていた。そして彼が、逡巡していることも知っていた。
丘のパーゴラで海を見つめていた少年の姿がそこにある。横顔が小さな迷い子のように見えて、澪はそっとその手を握った。

「行きましょう?」

ジェイは静かに息を吐くと、目を閉じて頷いた。
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