桜ふたたび 後編
「どちらから?」

ジェイは潔く廻れ右をした。

そこには昔気質の板前、いや日本の古い任侠映画に出てきそうな、頑固でそのくせどこか哀愁を感じさせる角刈りの男が、白菊の花束を手に立っていた。
なぜか足許に白猫がまとわりついている。さっき寺務所で僧侶の足にまとわりついていた青と金のオッドアイの猫だ。

「ニューヨークです」

うむと顎を引いて、男は表情を変えることなく墓前に花を手向け蹲踞して合掌した。
猫も前足を揃えて墓石を見上げ畏まっている。

ジェイはその場を離れることができなかった。ただ男の骨張った背を見つめていた。

ずいぶん長く感じた祈りが終わり、男は両股に拳を当てたまま、振り向かずに言った。

「遠路遙々ありがとうございました」

男はわずかに首を回して、

「そちらの方は?」

「婚約者です」

「そうですか」

墓石を見上げた男の顔が、微笑んでいるように見えた。

「本堂へ寄りましょう。和尚が茶を点てて待っている」
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