桜ふたたび 後編
深い樹木に囲まれた山寺は、一気に蒼然とした夕暮れを迎えていた。辺りはひっそりと静まり返り、本堂には木々の間をわたる風音だけがあった。
小さなお堂だが、須弥壇の厨子に五十センチほどの黄金のご本尊・観世音菩薩坐像、毘沙門天と不動明王を脇侍にお迎えし、前卓の灯明・時花・薫香も、素朴でありながら整然と献じられていた。
「ようよう、大願成就じゃのぉ。坂本さん」
礼盤の老僧は、艶々と照り輝く頭を撫でながら、ほくほくと微笑んだ。
長い眉毛は雪のように白く、丸い地蔵顔の老師だ。
白猫は坂本を離れ、すでに和尚の脇に従っていた。
「あれを」
老師は点頭して懐から古代紫の袱紗を取り出すと、坂本の前に置いた。
坂本は袱紗を床の上に滑らせて、対面のジェイの膝元へ差し出した。
「これを結婚の祝いに」
包みから現れたのは、カメオだった。
アゲート(瑪瑙)に絵画のように繊細な浮き彫りが施されている。エナメルの台には、パールの花芯を持つ黄金の桜花。葉と茎はプラチナで細工されている。かなり高価な品だ。
ジェイは怪訝に坂本を見た。
「なぜ、私に?」
つい、そんな言葉が口をついた。ジェイは一言も墓に眠る人物との関係に触れていない。幼少期の写真と同一人物だと確定するには尚早すぎる。
「それはあるひとの形見じゃき。手にとってご覧なさい」
老僧に促され、ジェイは仕方なくカメオを手にした。
小さなお堂だが、須弥壇の厨子に五十センチほどの黄金のご本尊・観世音菩薩坐像、毘沙門天と不動明王を脇侍にお迎えし、前卓の灯明・時花・薫香も、素朴でありながら整然と献じられていた。
「ようよう、大願成就じゃのぉ。坂本さん」
礼盤の老僧は、艶々と照り輝く頭を撫でながら、ほくほくと微笑んだ。
長い眉毛は雪のように白く、丸い地蔵顔の老師だ。
白猫は坂本を離れ、すでに和尚の脇に従っていた。
「あれを」
老師は点頭して懐から古代紫の袱紗を取り出すと、坂本の前に置いた。
坂本は袱紗を床の上に滑らせて、対面のジェイの膝元へ差し出した。
「これを結婚の祝いに」
包みから現れたのは、カメオだった。
アゲート(瑪瑙)に絵画のように繊細な浮き彫りが施されている。エナメルの台には、パールの花芯を持つ黄金の桜花。葉と茎はプラチナで細工されている。かなり高価な品だ。
ジェイは怪訝に坂本を見た。
「なぜ、私に?」
つい、そんな言葉が口をついた。ジェイは一言も墓に眠る人物との関係に触れていない。幼少期の写真と同一人物だと確定するには尚早すぎる。
「それはあるひとの形見じゃき。手にとってご覧なさい」
老僧に促され、ジェイは仕方なくカメオを手にした。